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福岡高等裁判所 昭和31年(ネ)828号 判決

福岡市東中洲四十一番地

控訴人

きたのや有限会社

右代表者清算人

松隈福二

福岡市大名町

被控訴人

福岡国税局長

田所正幸

右指定代理人

川本権祐

林正治

小野貞人

右当事者間の昭和三十一年(ネ)第八二八号法人税審査決定額に対する取消変更控訴事件につき当裁判所は左のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は原判決を取消す、被控訴人が控訴人に対し、昭和三十年九月六日付福局直法(監)第五七号、及び同日付福局協法(審)第一三一号を以てなした法人税等の賦課処分に対する審査請求棄却の各審査決定を取消す、訴訟費用は被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上及び法律上の陳述、証拠の提出、援用、書証の認否は、控訴人において博多税務署長は、控訴人の収入を査定するについて控訴人の正規の帳簿たる売上元帳、出入金伝票、金銭出納簿、及び控訴人作成提出の損益計算書によらないで、控訴人代表者の妻が記憶の便宜上記載していたに過ぎないメモ帳(甲第八号証、乙第一号証)のみを基礎とし、これに記載してある昭和二十九年四月一日以降同年六月末日までの収入金額が、控訴人において博多税務署長に提出した宿泊飲食税申告書記載の収入金額(乙第四号証記載)の四、一〇二倍に相当するという事実のみを根拠として、控訴人が実収入の四分の一以下の金額を申告していると妄断し、昭和二十八年十月二十日以降同二十九年三月三十一日まで(第一期事業年度)の申告収入額、及び昭和二十九年四月一日以降同年九月三十日まで、(第二期解散事業年度)の各申告収入額に右倍率(四、一〇二倍)を乗じて得た金額を以て控訴人の実際の収入金額であると断定し、これによつて控訴人に対する法人税額を算出決定し、被控訴人も亦右査定を是認して控訴人の審査請求を棄却したのであるが、かような正規の帳簿でもないメモ帳により収入金額を査定すること自体不当であるのみならず、右メモ帳には控訴人の旅館業収入と控訴人代表者及びその家族の個人収入が混記されているのであるから、前記の如き推計はなお更不当不合理であると陳述し、証拠につき、控訴人において、甲第九、十号証甲第十一号証の一、二、三、甲第十二、十三号証を提出し、当審証人西島孫治、内柴幹夫、松隈アイの各証言を援用し、被控訴代理人において、甲第九、十号証の成立を認める。甲第十一号証の一、二、三、甲第十二、十三号証はいずれも不知と述べた外は、原判決の当該摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

理由

本件に対する当裁判所の判断は左記の点を附加する外、原判決の理由に記載せられたところと同一であるから、ここにこれを引用する。控訴人は当審において甲第九号証(売上元帳)甲第十一号証の一乃至三(出入金伝票)甲第十二号証(金銭出納簿)甲第十三号証(売上元帳)を提出し、博多税務署が控訴人の旅館業による法人収入額を査定するについて是等正規の帳簿によらず、控訴人代表者の妻松隈アイが心覚えの為控訴人の旅館業収入のみならず、控訴人代表者及びその家族の個人収入をも混記していたメモ帳(甲第八号証)を基礎としたことは不当であると主張するけれども、原審(第一、二回)及び当審証人内柴幹夫の各証言並びにこれにより真正に成立したと認められる乙第二号証、当審証人松隈アイの証言の一部(松隈証人については後述措信しない部分を除く)を綜合すると、控訴人援用の右諸帳簿書類における収入金額の記載は、控訴人の収入全部を正確に記載したものではなく、その記載は実際より過少であり到底信頼するに足りないこと。然るに、成立に争のない甲第八号証メモ帳中昭和二十九年四月一日以降同年六月末日までの各頁の最上欄(むしろ欄外)の数字中最左端記載の金額は、右期間内における控訴人の旅館営業による日々の収入を正確に記入したものであること、及び控訴人の援用する前記売上帳(第十三号証)金銭出納簿(甲第十二号証)収入伝票及び支出伝票(甲第十一号証の一乃至三)等も、甲第八号証メモ帳の前記記載を基礎として(但しその一部の記載を除外して)記入せられたもので、右メモ帳の方が却つて、これ等正規の帳簿の基本となつていること。而も右メモ帳も昭和二十九年七月中旬博多税務署係員が実地調査に赴いてこれを写し取つて後は、その前に比し、収入金額が半減したように記載されているが、福岡国税局協議団本部の協議官の実地調査の結果によるも、右時期の前後により、控訴人の収入金額に著しい変動があつたことは到底認められなかつたこと。従つて右メモ帳の記載も昭和二十九年七月以降の分は、信頼できない為、原処分庁としては結局右メモ帳の昭和二十九年四月一日以降同年六月末日までの収入金額の記載を基礎としてこれと右期間内の控訴人の申告収入額との比率を取つて、この比率を全期間の申告収入額に乗じて収入額を推計する以外には、控訴人の収入額を合理的に算定する方法のなかつたこと、控訴人の旅館営業による収入は、申告収入額及び実地調査の結果等から見て、第一期事業年度と第二期解散事業年度とによつて、さしたる変動はなかつたと見られるので右の比率を右全期間に及ぼして考えても不合理でないことを認めることができ、当審証人松隈アイの証言中一部右認定に反する部分は措信し難く、原審及び当審において控訴人の提出援用するすべての証拠によつても叙上の認定を左右することはできない。控訴人は、右メモ帳の収入金額の記載中には旅館業による控訴人の法人収入の外に控訴人代表者松隈福二及びその家族の個人収入が混記されているから、これを以て、控訴人の法人収入額を査定したのは不当であると主張し、当審証人松隈アイの証言中にはこれに符合する部分があるけれども、これは原審(第一、二回)及び当審証人内柴幹夫の各証言に照らして考えると、たやすく措信し難く、他にこれを認めるに足るべき確証がないばかりでなく、却つて右証人内柴幹夫の各回の証言によれば、右メモ帳記載の収入金額の中には、控訴人主張の如き個人収入は含まれていないと認めるのが相当であるから、控訴人の右主張は採用し難い。

従つて、前記の如き方法によつて、控訴人の収入額を認定し、これに基いて控訴人の所得額を査定した上、控訴人の納付すべき法人税額を決定した原処分は正当であつて、これを維持した被控訴人の本件審査決定には何等違法の点はないから、右審査決定の取消を求める控訴人の本訴請求を棄却した原判決は正当というべく、本件控訴は理由がない。

よつて民事訴訟法第三百八十四条、第八十九条を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 野田三夫 裁判官 中村平四郎 裁判官 天野清治)

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